よくある症状
よくある症状
甲状腺ホルモンは、全身の細胞の「新陳代謝」を活発にする、いわば車のアクセルのような役割を果たすホルモンです。このホルモンが過剰に分泌される病気を総称して「甲状腺機能亢進症」と呼び、その代表的な疾患が自己免疫疾患の一つである「バセドウ病」です。甲状腺ホルモンが必要以上に血液中に増えてしまうと、体内の細胞が過剰に働き、エネルギーの消費が異常に激しくなります。
この状態は、何もしていない安静時であっても、体の中で全力疾走を続けているような状態です。エネルギーが大量に燃焼されるため、体内で熱が過剰に産生されます。その結果、患者様は季節を問わず、周囲の人よりも異常に「暑がり」になります。冬場でも暖房の効いた部屋を嫌がったり、薄着で過ごしたりすることが珍しくありません。
さらに、体内で作られた過剰な熱を外に逃がして体温を調節しようとするため、自律神経(交感神経)の働きによって汗腺が刺激され、大量の汗をかくようになります。これを「多汗」と呼びます。特に運動をしたわけでもないのに、少し動いただけで顔や全身から汗が噴き出したり、寝汗をびっしょりかいて夜中に何度も目が覚めたりすることがあります。
これらの症状は、単なる「体質」や「更年期障害」のホットフラッシュ、あるいは「自律神経失調症」と勘違いされやすく、受診が遅れる原因となることが少なくありません。しかし、甲状腺機能亢進症による暑がりや多汗の場合、いくら食べても体重が減少していく、常に脈が速い、手指が細かく震える、といった他の特有の症状を伴うことが多いのが特徴です。当院では、血液検査によって血中の甲状腺ホルモン濃度を測定し、症状の原因が甲状腺にあるかどうかを正確に診断いたします。適切な治療によってホルモンバランスが正常に戻れば、驚くほど汗の量や暑がりな体質は改善されますので、ご自身やご家族にこのような変化が見られる場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
動悸(どうき)とは、普段は意識することのない心臓の拍動を、不快な鼓動や激しい打ち消しとして自覚する症状を指します。甲状腺を専門とする当クリニックにおいて、動悸は患者様が受診を決意されるきっかけとして最も多い症状の一つです。この動悸の背景には、甲状腺ホルモンの過剰分泌があります。
甲状腺ホルモンには、交感神経を刺激して心臓の働きを強め、脈拍を速くする作用があります。そのため、ホルモンが過剰になる「甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)」になると、心臓が常にフル回転で血液を全身に送り出さなければならない状態に陥ります。これにより、安静にしていても1分間の脈拍数が100回を超える「頻脈」となり、激しい動悸として自覚されるようになります。
患者様からは「心臓がドキドキして胸が苦しい」「喉のあたりまで心臓が飛び出してきそうだ」「走ってもいないのに息が切れる」といったお声をよく伺います。特に、夜ベッドに入って静かにしている時や、階段を少し上っただけで激しい動悸に襲われることが多いのが特徴です。また、心臓への負担が長期にわたって続くと、不整脈の一種である「心房細動」を引き起こすこともあります。心房細動は血栓(血の塊)を作りやすくし、脳梗塞のリスクを高めるため、決して放置してはいけない危険な状態です。
動悸の原因が心臓そのものの病気(心不全や弁膜症など)にあるのか、それとも甲状腺の病気によるものなのかを正しく見極めることが重要です。当院では、甲状腺の血液検査に加えて、必要に応じて心電図検査を行い、心臓の状態と甲状腺ホルモンの関連性を詳しく調査します。甲状腺の病気が原因である場合、心臓の薬(ベータ遮断薬など)で一時的に動悸を抑えつつ、抗甲状腺薬によってホルモンの分泌量を正常化させていくことで、心臓への過剰な負担を取り除き、動悸の症状を根本から解消していくことが可能です。心臓のドキドキや息切れが続く方は、年齢のせいなどと諦めず、一度当院の専門外来を受診してください。
「いくら寝ても疲れが取れない」「体がだるくて朝起き上がるのが辛い」といった慢性的な疲労感は、甲状腺の病気において非常に頻度の高い症状です。興味深いことに、この「疲れやすい(易疲労感)」という症状は、甲状腺ホルモンが多すぎる場合(甲状腺機能亢進症)と、少なすぎる場合(甲状腺機能低下症)の、どちらの病態でも現れる共通のサインです。
まず、ホルモンが過剰になる「バセドウ病」などの亢進症では、全身の代謝が異常に高まっています。これは、本人が何もしていなくても、体内の細胞は24時間常に全力疾走でフル稼働している状態です。エネルギーが常に激しく消費され続けるため、体はあっという間にエネルギー切れを起こします。そのため、日常のちょっとした動作、例えば買い物に行く、階段を上る、家事をする、といっただけでも激しい疲労感に襲われます。また、筋肉のタンパク質が分解されやすくなるため、筋力が低下し、足腰に力が入らなくなって疲れやすさを助長することもあります。
一方、ホルモンが不足する「橋本病」などの低下症では、逆に全身の代謝が極端に低下します。体温を作り出したり、内臓を動かしたりするエンジンの出力が弱まっている状態です。生命活動を維持するためのエネルギーそのものが十分に作られないため、体全体が「省エネモード」になってしまいます。この結果、動くためのエネルギーが不足し、常に重だるい疲労感につきまとわれることになります。
このように、全く正反対の病態であるにもかかわらず、どちらも最終的には「激しい疲れやすさ」として体に現れるため、症状だけでどちらの病気かを自己判断することは困難です。多くの患者様が「ただの疲れ」「年齢のせい」「怠け癖がついた」と思い込み、無理を重ねて病状を悪化させてから来院されます。甲状腺疾患による疲労は、休養だけでは決して回復しません。血液検査でホルモンの状態を正しく把握し、適切な治療を行うことで、本来の元気な体を取り戻すことができます。
日中に強烈な眠気に襲われる、体が鉛のように重くてだるい、といった症状は、甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」の典型的な兆候です。その代表的な原因疾患が、自己免疫の異常によって甲状腺に慢性の炎症が起こる「橋本病」です。
甲状腺ホルモンは、全身の細胞を活性化させ、脳の働きをシャープに保つ役割も担っています。このホルモンの分泌が低下すると、全身の代謝レベルが著しく低下し、体内のあらゆる機能がスローダウンしてしまいます。脳の活動も鈍くなるため、夜間に十分な睡眠をとっているにもかかわらず、日中に強烈な眠気が持続するようになります。仕事中や運転中に突然我慢できないほどの眠気に襲われることもあり、日常生活や社会生活に支障をきたすケースも少なくありません。
また、代謝の低下は全身の倦怠感(だるさ)としても現れます。「体が重くて動くのが億劫」「何をするにもやる気が出ない」「集中力が続かない」といった自覚症状が続きます。言葉のテンポが遅くなったり、動作が緩慢になったりすることもあります。これらの症状は、脳の認知機能の低下とも結びつきやすいため、高齢の方の場合は「認知症」と間違えられたり、働き盛りの方の場合は「うつ病」や「五月病」「慢性疲労症候群」などと誤診されたりすることが非常に多いのが現状です。
「単なる疲れや気分の落ち込み」として片付けられがちなこれらの症状ですが、実は甲状腺ホルモンの不足が原因である可能性が隠れています。当院では、甲状腺機能を調べる血液検査を迅速に行い、ホルモンの不足が確認された場合には、不足している甲状腺ホルモンを薬(内服薬)で補う治療を行います。この治療は、足りないものを補うだけなので、適切な量を服用していれば副作用の心配はほとんどありません。ホルモン値が正常化すると、霧が晴れたように頭がすっきりし、日中の眠気や重いだるさから解放され、元の活動的な生活に戻ることができます。
「文字を書こうとすると指先が細かく震える」「お茶を飲もうと湯呑みを持つと手がカタカタと揺れる」といった手の震えは、医学用語で「振戦(しんせん)」と呼ばれます。この症状も、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)」で非常によく見られる典型的な症状の一つです。
甲状腺ホルモンが血液中に過剰に存在すると、全身の神経系、特に交感神経が異常に興奮した状態になります。神経の緊張が高まることで、筋肉の微細なコントロールが効かなくなり、意志とは無関係に手や指先が細かく、規則的に震えるようになります。この震えは、何か目的を持った動作をしようとした時(例えば、書類にサインをする、ボタンを留める、お箸で食べ物をつまむなど)に、より顕著に現れやすくなる特徴があります。
多くの患者様は、自分の手が震えていることに気づいた時、「脳の病気ではないか」「パーキンソン病かもしれない」「アルコール依存症の症状だろうか」と大きな不安を抱えられます。また、人前で手が震えることで恥ずかしい思いをしたり、緊張してさらに震えが強くなったりするという悪循環に陥ることも少なくありません。実際には、手の震えに加えて、脈が速い(動悸)、体重が減る、汗を大量にかく、といった甲状腺亢進症の他の症状が同時に出ているケースがほとんどです。
当院では、手の震えを訴えて来院された患者様に対して、指先の震えの細かさやパターンを観察するとともに、甲状腺ホルモン値を測定する血液検査を行います。治療としては、まず震えや動悸などの交感神経の興奮を抑えるためのお薬(ベータ遮断薬など)を一時的に使用し、速やかに震えをコントロールします。それと並行して、根本的な原因である甲状腺ホルモンの過剰分泌を抑える抗甲状腺薬の服用を開始します。ホルモンバランスが落ち着いてくれば、手の震えは自然と消失していきますので、過度な心配はいりません。
甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にある、蝶が羽を広げたような形をした小さな臓器です。正常な状態では、皮膚の上から触ってもほとんど分かりませんが、甲状腺に何らかの異常が生じると、首の正面の部分が腫れてきたり、しこり(結節)が触れたりするようになります。これを専門的には「甲状腺腫」や「甲状腺結節」と呼びます。
首の腫れ方には、大きく分けて2つのパターンがあります。一つは、甲状腺全体が均一に大きく腫れる「びまん性甲状腺腫」です。これは、バセドウ病や橋本病などの、甲状腺の機能異常を伴う自己免疫疾患でよく見られます。首が全体的に太くなったように見え、ワイシャツの襟が窮屈になったり、ネックレスがきつく感じられたりして気づくことがあります。
もう一つは、甲状腺の一部にゴツゴツとした塊ができる「結節性甲状腺腫(しこり)」です。これには、良性の腫瘍(腺腫や嚢胞など)と、悪性の腫瘍(甲状腺がん)があります。甲状腺のしこりは非常にありふれたもので、検診などで偶然見つかることも多いですが、触って硬いしこりがある場合や、短期間で急に大きくなってきた場合、声がかすれる(嗄声)などの症状を伴う場合は、悪性の可能性を考慮して精密検査が必要です。
患者様ご自身が鏡を見て気づくこともあれば、ご家族や職場の同僚から「首が腫れているよ」と指摘されて受診されるケースも多々あります。当院では、触診に加えて、超音波(エコー)検査を丁寧に行います。エコー検査は、ゼリーを塗って機械をあてるだけの痛みのない検査ですが、しこりの大きさや形、性質(良性か悪性かの確率)を非常に詳しくリアルタイムで確認することができます。悪性が疑われる場合には、しこりに細い針を刺して細胞を採取する「穿刺吸引細胞診」を行い、確定診断をつけます。首の違和感や腫れを見つけたら、怖がらずにまずはエコー検査を受けにいらしてください。
朝起きた時に顔や、特にまぶたがパンパンに腫れている、夕方になると靴がきつくなって足のすねを指で押すと凹んだまま戻らない、といった「むくみ(浮腫)」は、女性を中心に多くの方が悩まれる症状です。むくみの原因は様々ですが、甲状腺の機能が低下する「甲状腺機能低下症(橋本病など)」においても、極めて特徴的なむくみが現れることが知られています。
甲状腺ホルモンが不足すると、全身の代謝が著しく低下し、体内の水分や老廃物を適切に排泄する能力が落ちてしまいます。さらに、甲状腺機能低下症によるむくみには、通常のむくみとは異なる大きな特徴があります。それは、皮下に「ムコ多糖類(ヒアルロン酸など)」という水分を強力に抱え込む物質が異常に蓄積することです。
このため、甲状腺機能低下症によるむくみは、指で強く押してもペコッと凹んだ痕が残りにくいという特徴があり、これを医学用語で「非陥凹性浮腫(ひかんおうせいふしゅ)」、または「粘液水腫(ねんえきすいしゅ)」と呼びます。顔全体がぼてっとした仮面のような表情になったり、唇や舌が厚ぼったくなって言葉が話しづらくなったり、声が低くハスキーボスキーになったりすることもあります。また、手がむくむことで手首の神経が圧迫され、手のひらにしびれや痛みが生じる「手根管症候群」を合併することもあります。
もちろん、塩分の取りすぎや立ち仕事、心臓や腎臓の病気、あるいは特発性(原因不明)のむくみであることも多いですが、「むくみ」に加えて、体がだるい、異常に寒がる、体重が増える、便秘がちになる、といった他の低下症の症状が重なっている場合は、甲状腺の病気を強く疑う必要があります。当院では、血液検査で甲状腺ホルモンをチェックし、原因を特定します。低下症によるむくみであれば、甲状腺ホルモン補充療法を開始することで、溜まっていた余分な水分や粘液水腫が劇的に改善し、本来のスッキリとした顔立ちや体型に戻ることができます。
甲状腺は、首にある小さな臓器ですが、そこから分泌される甲状腺ホルモンは、全身の臓器だけでなく、脳の視床下部や下垂体といった「ホルモンの司令塔」とも密接に連携しています。そのため、甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、卵巣や子宮の働きをコントロールしている女性ホルモンの分泌リズムも狂ってしまい、婦人科系の様々なトラブルを引き起こします。
まず、甲状腺機能亢進症(ホルモン過多)でも、甲状腺機能低下症(ホルモン不足)でも、どちらの病態においても「月経不順(生理不順)」が起こりやすくなります。生理の周期が短くなったり、逆に何ヶ月も来なくなったり、経血の量が極端に少なくなったり、あるいは不正出血のようにダラダラと続いたりするなど、個人によって現れ方は様々です。
さらに重要なのは、甲状腺の異常が「不妊症」や「習慣性流産」の原因になるという点です。甲状腺ホルモンの乱れは、正常な排卵を妨げる「排卵障害」を引き起こし、妊娠しにくい体質を作ってしまいます。また、たとえ妊娠が成立したとしても、甲状腺ホルモンは胎児の脳や骨の正常な発育に不可欠なため、母体の甲状腺機能が不安定だと、初期の流産や早産、妊娠高血圧症候群などのリスクが高まることが分かっています。
近年、不妊治療専門のクリニック(生殖医療センター)でも、不妊の原因精査として必ず甲状腺機能の検査が行われるようになっています。自覚症状がほとんどない「潜在性甲状腺機能低下症」であっても、妊娠の成立や継続には悪影響を及ぼすため、妊娠を希望される女性は、より厳格な基準で甲状腺ホルモン値をコントロールする必要があります。当院では、不妊治療中の方や妊活中、妊娠中の女性に対して、婦人科の主治医の先生とも連携しながら、安全かつ最適な甲状腺ホルモン管理を行っております。生理不順が続いている方や、なかなか子宝に恵まれないとお悩みの方は、一度甲状腺のチェックを受けてみることをお勧めいたします。
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